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ジャングルマラソン「未」完走記11:モーターバイク

 

ステージ4をなんとか完走し

明日に向けてハンモックの準備をし、

とある選手Yと談笑していた時の事。

彼は非常に有能なランナーで、

しかもいつも明るくステキな笑顔を絶やさないタイプ。

そんな彼が、少し困った表情で、低めの声で話しだした。

 

「今日のコースで、大きな下り坂に続いて、長い急な坂道が続くコース、あったよね?

実は、あの道に差し掛かった時、

ブラジル人選手のXが

モーターバイクで坂を登っていくのを見てしまったんだ。」

 

「えっ(;・∀・)!? モーターバイク??

あの、ステージ2から急速に順位をあげてきている、Xのことだよね?」

 

 

どうやら、Xはこのレースの地元に住んでいるらしく

(密林地帯に3つだけある小さな集落出身らしい)

実は過去の大会でも何回か地元のサポートのもと、

ズルをしているのでは? と疑惑を受けていたとのこと。

 

確かに、この大会では、ステージ1から

コース中に突如現れる秘密のチェックポイントが用意されており、

そこでタイミングチップで電子的に計測するとともに

手首に紙を巻いて印を付けるルールを課せられていた。

 

秘密のチェックポイントを通らず、

印が無いままゴールをした場合はペナルティを失格になるのだ。

 

レース前にそのルールを聞き、タイム計測係のDavidに

「いままでの大会で、こういうのは無かったのに、なんで?」

と聞いたら

「ショートカットとか、ズルをしないためなんだよ」

と教えてくれた。

 

こんな密林で、どうやってショートカットできるんだ(´・д・`)?

 

と不思議に思っていたのだが

土地勘がある人にとってはショートカットをしたり、

地元の友人にサポートしてもらうのも可能なのかもしれない。

 

たしかに、必須装備の荷物チェックも、

ゴール直後にほぼ毎日のように行われており

「随分と、厳しくチェックされるな」

という印象はあったのだが。

 

結局Xは、ステージ4で失格となり、

キャンプ地から地元へと帰らされたようだ。

 

他の選手ならば、「キャンプ地から退場」と言われても、行く宛も手段も無いのだが、

地元の彼は知人のモーターバイクに載せられてキャンプ地を去っていった。

 

Xは明らかにアスリートなランナー体型で、

普通にレースを続けても十分よい順位を狙えるだろうに

なんてもったいないんだ。

 

最初は、

 

「モーターバイクって、ギャグみたいじゃん(;・∀・)」

 

と苦笑していたのだが、

レース上で、毎日のように彼とすれ違い、

順位も肉薄しながらも、

同じランナー同士として、同じ闘いに挑んでいたと思っていた僕は

キャンプ地を去る前に事務局となにやら激しく言い合いをしていたXの姿を思い出し

次第に複雑な気持ちになっていく。

 

 

そして、もう一つ複雑なのは

夜になっても、僕のオシッコの色が赤いままだったこと。

 

レースが終わり、たくさんの水を飲み続けてもう何時間も経つというのに。

 

再度ドクターに相談すると

「ひとまずは、とにかく水を飲み続けること」とのこと。

朝になれば収まるかもしれないが、どこか、身体を壊しているのかもしれない。

 

でも、せっかくステージ4もゴールできたのだ。

あとは、なんとかステージ5をクリアすれば、ほぼ完走だ。

明日のステージ5は朝4時半スタート。朝3時には起きなければ。

 

しっかりと水を飲み、午後7時にはハンモックに潜り込んだ。

 

その後、とてつもなく「長い、夜」が待ち受けているとは知らずに。

 

つづく

ジャングルマラソン「未」完走記12:長い、夜

 

ステージ4の疲れもあってか、その夜はハンモックに入り

すぐに眠りに落ちていった。

 

午後7時に就寝し、翌朝3時の起床まで、

たっぷり8時間は眠ることができる。。。。ハズだった。

 

 

その真夜中の11時過ぎに、僕を起こしたのは

お馴染みの「コケコッコー」合戦でも

サルのサイレン大合唱でもなく、

 

ニンゲンの声によるざわめき

 

によるものだった。

 

 

 

「ブリーフィング(説明会だ)! ブリーフィング!!」

 

という、緊迫した声があちこちで聞こえ、

選手たちが真夜中に起こされる。

 

明日は朝が早いのに、一体どうしたのだ?

 

熟睡してしまっていた僕は、半ば眠気眼で慌ててハンモックから抜け出し、

すでに人だかりに何やら説明をしている主催者のShirleyの元へと集まった。
スペイン語の説明が優先しており、状況は掴めないのだが、何やら緊急事態のようだ。

 

スペイン語と英語と両方わかる選手に「ナニがあったの?」と聞いた答えは、

実に驚くべき内容だった。

 

 

 

 

「ステージ4で、失格・退場となった

 

地元に住むブラジル人選手Xが激昂し、

 

明日のステージ5のコース上で

 

『通りかかる選手たちを撃ち殺す』

 

と、脅してきた。」

 

 

耳を疑う、理解に苦しむ内容。

 

まさかそんなバカな?

 

・・・

 

いや、ありうるのだろうか?

 

 

主催者Shirleyから、英語とスペイン語と、交互に説明がされていく。

 

「失格となった地元の選手Xの話しは単なる脅しかもしれないが、

万が一それが現実となってしまってからでは遅い。

事務局側としては、明日のコースは変更せざるを得ない。」
次第に、聞いている選手たちからも次々と

Shirleyへと声があがっていく。

 

「コースは、どうなるんだ!? 2-3週間もかけて設営したコースを

しかも100kmも変更なんてできるのか?!」

「コースについては、これから検討します。たとえば、今日来たステージ4のコースを戻る。とか。」

「今日来たコースをまた戻るだって!!??そんな馬鹿な!」

 

混乱とともに、みな、次第に語気が荒くなっていく。

 

他のブラジル人からは

 

「そもそも、その失格になったXがモーターバイクに乗っていたのは、本当なのか?

それを見たヤツは誰なんだ?

そいつが、嘘を付いているかもしれないじゃないか?」

 

というコトバさえ。

 

モーターバイクの一件は、Yと親しい僕はYから直接聞いていたのだが、

他の選手はそれを知らないし、もちろんShirleyもそれは言えるわけがない。

 

さらには

 

「そもそも、今こうしている間に、

このキャンプ地が襲われたらどうするのだ?」

 

という声すらあがる。

 

ここは、ジャングルなのだ。

ブラジルという国内ではあるのだが、

警察が駆けつけてくれる場所ではない。
しかも、これまで通りかかった他の集落では、

ライフルの存在は普通に見かけていた。

ピューマなど猛獣がいるので、なんら不思議に思わなかった光景だが、

今になって、そのライフルの映像

にわかに「襲撃」というコトバに現実味をもたらす。

 

周りにあるのは、大自然と、大量の虫と生物と、

そして、わずかにいる人間たちのみ。

 

その僅かな人間の、たった一人の行動で、

いま残りの人間達がパニックに

そして、危機に陥ろうとしている。

 

 

スペイン語と英語での、激しいやりとりの中で、

 

– 明日の朝4時半スタートは一旦延期

– 午前中にまたブリーフィングを行い、今後について説明する

 

ということが決められる。

 

それでもまだ、多くの選手は混乱の中激しく言い合いを続けている。

 

僕も、一部の選手たちも、

「とにかく、ハンモックに戻ろう。それしか、今できることは無いんだし」

とハンモックへ。

 

Xにしてみれば、小さな集落出身ながら、地元で、

しかも世界中の選手が集まるレースに参加しているのだ。

 

賞金が出るわけではなくとも、そこで上位、もしくは優勝したら、ヒーロー扱いだろう。

 

逆に、まだレース期間中にも関わらず集落に戻り「失格になった」とは、

とても言えないのではないか。

 

運営側や選手側に追い出された、という逆の説明で、

夜中のうちに集落をあげてキャンプ地を襲いに来ないとも限らない。

 

未開の自然が一番の脅威と思っていた大会で、

まさか人間が最大の脅威に変わるとは、思ってもみなかった。

 

人間は、しかも、集団となると、自然以上に先が読めない。

 

 

それまでの熟睡とは打って変わって、不安で何度か目をさましながら

浅い睡眠とともに、長い、長い夜が更けていった。

 

いったい、僕らは、どうなるのだろうか。

 

 

つづく

ジャングルマラソン「未」完走記13:決断

 

結局、何度も何度も浅い眠りから目が覚め

たいした睡眠が取れぬままステージ5の朝を迎えた。

それでも、襲撃に合わず、無事に太陽を迎えることができただけでも、有難い。

ここは、あらゆる「まさか」が通用しない場所だ。

 

午前中のブリーフィングにより、

レースはなんとか続行し、

ステージ5のスタートは午後2時半に決まった。

 

コースは、Xが住む危険地帯をボートで移動し回避することに。

ボートで距離が短くなるため、

最終のステージ6で予定されていた24kmほどをステージ5に吸収し、

さらにステージ5の序盤はステージ4の一部のコースを逆走し、周回して戻ってくるコースに。

 

そして、この混乱の中、レースを降りるのも自由で、

すぐにサンタレムの村へと戻れるボートも用意していること。

 

大会側としては、中止もやむ無しな中、

なんとかレースを続行できるよう、苦肉の策だったはずだ。

 

しかし、それでも選手たちは混乱が続いていた。

元来た道を戻ることや、ボートの乗り場に到着するタイミングによって

タイムに優劣が出てしまうことなどに

様々な不満が怒りとともにShirleyらにぶつけられる。
結局、それまでダントツにトップを走っていたBernardや、ほか数名の選手は

その場でレースを降り、その場でサンタレムに戻る判断をする。

 

ブラジル人の選手の一部は、どうやってか、夜中のうちにキャンプ地を脱出して

そのままレースを降りてしまった人もいるようだ。

 

正直、僕もまったく気持ちがのらない。

 

これだけ混乱し、とはいえ急遽用意されたコースを夜通し通る中で

ただでさえリスクがつきまとうジャングルで、

果たして何もトラブルなくレースを続けられるのか。

 

これを完走して得られるものの一方で、

今までとは異質なリスクも待ち構えている中で、

モチベーションが湧いてこない。
幸いにして、オシッコの赤色は通常にもどってはいるが

気持ちのせいなのか、体調のせいなのか、朝からずっと気分も悪い。
それでも、おそらく徹夜で対処を続けたであろう、赤い目をしたShirleyから

「ヒロは、どうする? レースを中断するか、スタートするか。」そう尋ねらた時、

同じく徹夜明けで疲れが見えるスタッフらの努力を想うと、

それに応えたい気持ちが強まってくる。

 

 

「スタート、します」

 

 

そうして、迎えた午後2時半。ステージ5のスタート時刻。

 

混乱の中設定されただけに、いつもあるべきスタートの旗さえ無い。

 

本来の朝4時半スタートからは10時間遅れ。

100kmを超える距離は、完全に夜を越えなくてはゴールに辿り着けない。
スタートに立ちながらも、

「やはりレースをキャンセルするべきだったのか?」

 

という、迷い、胸騒ぎが消えないまま、スタートを切った。

 

 

 

悪い予感はあたるものなのか。

 

ステージ4同様、ステージ5も、スタートしてまもなく、

気持ちが悪くなり走れなくなってしまう。

 

フラフラと歩きながら、コースが密林に入る度に、

いつもと違う恐怖に見舞われる。

 

そこで、何かが起こるのでは?といった恐怖より

こんな体調で密林に入って大丈夫なのだろうか?

という恐怖。

 

上り坂では、四つん這いで進むどころか、

完全に立ち止まり、しばし休んでからでないと歩き出せないほどに。

 

次第に、まったく楽しくないどころか、悲しさを通り越して

胸にポッカリと穴があいてしまったかのような、

はかない気持ちになっていく。

 

もはや、ダントツのトップ選手もレースを降りるほど、

もはやレースとして体をなしてないようなモンじゃないか。

これをゴールして、完走といえるのか。

 

そんな中、この後100kmほども、密林や、沼や、川や、

真夜中のジャングルをぬけられるというのか。

 

危なくはないのか。

 

昨日の血尿疑惑のこともある。

何か、身体に異変がでつつあるのではないか。

このまま頑張ったら、何か身体に重篤なダメージをもたらすのじゃないのか。

 

 

「リタイア」という文字と共に、次々に「リタイアの言い訳」が頭をよぎる。

 

いや、大丈夫だ。昨日みたいに、いずれまた走れるようになるよ。

沢山の人が、応援してくれてるんだ。

期待に応えたいじゃないか。

順位が下がったとはいえ、完走すれば喜んでもらえるはずだ。

 

順位やタイムは関係なく、「完走できるか、否か」の差がどれほど大きいものか、

過去少ないながら、リタイアとなった大会で、痛いほど味わっているじゃないか。

 

フラフラだって、歩き続ければ、必ず、ゴールに辿り着くんだ。

ここから、こんなピンチから復活してこそ、みんなを勇気づけられるパワーになるんだよ。

やらなきゃ。頑張らなきゃ。

時間は、たっぷりあるんだ。

 

 

 

 

頭はなかば朦朧となりながらも、

必死に自分を奮い立たせようと

自分に問いかける。

 

そんな自分とのやりとりを、

何度繰り返したのだろう。

 

 

 

密林の中で突如

何故だかアタマにボンヤリと浮かんで来たイメージ。

 

 

 

飲み屋でヨメと2人で、楽しく飲み交わしている光景。

 

何気ない、「あたりまえ」な、日常の光景。

 

 

とたんに、その「あたりまえ」が、とてつもなく

かげがえのないものに思えてくる。

 

 

 

 

 

「ゲンキに、家に帰らなければ」

 

 

 

 

この時、リタイアを、決断した。

 

 

 

 

 

フラフラ歩きながらなんとかチェックポイントに辿り着き、

リュックをおろし、倒れこむ。

まだ陽は沈んでないというのに、急に寒気が。

 

防寒具を着こみ、メディカルのスタッフが引いてくれたマットに横になる。

やはり、熱があるかなにかで身体がおかしくなっているのだろうか。

 

完走、できなかったんだな、オレ。

 

ケガで走れなくなったのでも、

関門に間に合わなかったのでもなく

自ら、レースの途中でリタイアを決断したんだよな。

 

 

応援してくれていたみんな、どんな風に思うんだろう。

いいや、もう、あまり考えられない。

 

 

ただただ、ゲンキでユミの元に帰って、

「いや〜、たいへんだったんだよ〜」

と笑いながら、

一緒にお酒を飲めればいい。

 

 

この後、そんな「日常」に戻ることすら叶わなくなるような

新たな恐怖が出てくることになるなんて。。。

 

 

つづく

 

ジャングルマラソン「未」完走記14:新たな、恐怖

 

リタイア後、

スタッフの車でボート乗り場に向かう僕は、

気分の悪さと、レースを降りた安心からか、死んだようにぐったりとシートで眠りつく。

 

他のチェックポイントでも、リタイアした選手が車に運び込まれるのを目にし

改めて、この大会のタフさを感じさせられる。

 

他の砂漠レースでは、リタイアは初日〜3日目に集中し、ステージ5まで来れば

ほとんどの選手はゴールするのだが、ジャングルはそうはいかないようだ。

 

そうして、ボート乗り場へ。

脅しをかけてきたXが住む「危険地帯」を回避するために、

選手達も乗り込んでいるボートに相乗りさせてもらうのだ。

 

少しは体調が回復したとはいえ、早く横になりたい。

ボートに乗れれば、ハンモックで眠れそうだ。

 

が、乗り込んでみたボートは、まるで戦場のように、所狭しと選手たちが横たわり

濡れ雑巾のようになった選手たちがでグッタリとしている。

DSC00823

 

 

しかも、暗闇の中電灯をつけているボートでは、

そんな選手のアタマのすぐ上を、大量の虫が飛びまくっている。

DSC00824

↑↑ 電灯の周りで白く小さく見える粒すべてが、虫である。
これらが、空中で霧のように飛び回っている。

 

まるで地獄なのかというような、おぞましい光景。

 

とても、ゆったりと横になれる状況ではない。

 

それでも、なんとか見つけた甲板のスペースに、倒れるようにうずくまって横になる。

 

そして、真夜中に寒さで目覚め、防寒具をリュックから出そうとした時だった。

 

なぜか、リュックのチャックを、上手く開けられない。

いや、右手だけ、チャックを握ることができない。

 

あれ?? 右手、どうした??

 

見ると、右手の手首より先が、幽霊のようにダラーンとぶら下がり

まったく動かすことができなくなっている。

 

指は多少は動くのだが、うまくものを掴めない。

 

寝起きで寝ぼけながら、

ちょっとシビれて一時的に動かなくなったのだろうかとボンヤリ考えながら、

片手で取り出した防寒具を身にまとう。

 

どうせ、しばらくたてば、治るさ。

 

 

それが、どうだ。

2時間ほど後に目覚めた時も、

まったく右手が動かない。

 

正座して足がシビレたって、何時間もしびれるなんてことはない。

不安が大きくなり、必死に右手をマッサージする。

 

右手が、左手よりも、やたらに冷たい。

 

ボートにいるメディカルに相談するも、

不思議そうな顔をしながら「時間がたてば、元にもどるのでは」とのコメント。

 

でもその後も、5〜6時間たとうが、朝を迎えようが、

右手は動かないまま。

 

さらに待てば動くのかもしれない。

 

でも、ただでさえ、直前までアタマが朦朧として倒れたのだ。

神経系の異常なのでは、ないのだろうか。

血尿らしき現象すらあったのだ。

何か変な病気にかかったのだろうか。

おかしな虫に刺されたのだろうか。

 

 

もしかしたら、これは単なる前兆で、

徐々に身体中に麻痺が広がっていくのかもしれない。

 

そうしたら、走るどころか、しゃべることさえ。

いや、食べたり、飲んだりすることさえ、

ままならなくなるのだろうか。

 

ただでさえ、「まさか」が通用しない状況下にいるのだ。

自分の身体で「まさか」が起きない保証なんて、どこにもないじゃないか。

 

一生、麻痺した身体でユミに迷惑をかけながら生きることになってしまうのか。

想像するだけでも、恐怖だ。

 

 

でも、その全てが、「ゼッタイに無い」なんて、言えない。

 

 

翌朝、スタッフに相談し、可能なら予定を前倒しして帰国し病院に行きたい旨を伝える。

幸いにして、サンタレムの空港からさほど離れていない場所に着いていたため、

スタッフも快く対応してくれ、実費覚悟で空港に向かうつもりが、

大会の車で空港まで送ってもらう。

 

空港といっても、超僻地である。

英語が通じるスタッフがほぼ居ない中で、

「フライトを前倒して変更したい。できなくても新規にチケットを買いたい」

ことを伝える。

 

口頭での英語が伝わりにくいので、筆談、と思うも

あいにく右手が不自由なので、文字が書くのさえ困難なのだ。

 

「空港の端末の回線スピードが、恐ろしく悪いんですよ」

と困惑顔のスタッフとタッグを組んで、

急遽フライトを検索し新規に取り直すのだけで1時間以上かかった。

それでも、有難い。

 

もともと抑えていたフライトは

サンタレム → マナウス → マイアミ → シカゴ → 東京

なのだが、ここサンタレムで手配できるのは、マイアミまで。

 

マイアミ → シカゴ → 成田のフライトも同じく前倒ししたいのだが、

WiFiや携帯でのデータ通信などほとんど通じず、

携帯電話の電話回線すら、途切れ途切れ。

 

マイアミから先のフライトが取れるかどうかは、マイアミに着いてじゃないと確認ができない。

それでも、少しでもこの場から東京に近づきたい。

 

なんとかギリギリ通じる電話で、まずはユミに電話をかける。

 

リタイアしたこと。でも無事であること。早めに帰国を考えていること。

 

 

右手が動かないことについては、迷った挙句、ついに伝えられなかった。

 

もしかしたら、帰国までに回復して、笑い話で済むかもしれない。

イタズラに「どうなるか分からない恐怖」をユミにまで味あわせたくない。
 

フライトまで、13時間ほどの待ち時間。

手の症状について調べたくとも、ネットもつながらない。

 

不安を紛らすためにできることといえば、

kindleで、いままで溜め込んでいた本を読み漁ることくらい。

 

一体、自分はどうなってしまうのだろうか。

 

つづく

 

ジャングルマラソン「未」完走記15:別れの告白

 

長い長いサンタレムでのフライト待ちを経て、マナウスへ。

マナウスも僻地なのだろうと思っていたのだが、

着陸間際に飛行機の窓から見えたたくさんの街明かりを見て

思わず感動してしまう。

 

ひとまずは、ジャングルからは、脱したのだ。

 

ようやくネットや電話が当たり前に繋がる環境になり、

左手だけでパソコンを操作しながら、

無事、マイアミ→シカゴ→成田のフライトも早めのチケットを買い直す事が出来た。

 

余計にお金はかかってしまうのだが、そんなことはどうでもいい。

少しでも早く帰国したい。

 

わずかではあるが、動かなかった右手の一部に動かせる感覚が生まてきたことと

早めの帰国のフライトが抑えられた安心もあり、

改めてユミに電話をし、右手のことを告げる勇気が湧いてくる。

 

帰国が早まった話しをひと通りした後で、意を決して口を開く。

 

「あのね。。。実は伝えなきゃならないことがあるんだけど。。。

実はね。リタイア後、

なぜだか右手が急に動かなくなってしまったんだ。

 

でも、今は少しだけ良くなっているから、多分、大丈夫と思うよ。

でも何があるかわからないから、

それもあって、早く病院に行かないとと思って、帰国を早めたんだ。」

 

 

驚くほど落ち着いた声で、ユミが答えた。

 

「そう。。でもフライト取れてよかったね。

病院、探しておくね。

・・・

・・・

実は、私も大事な話しがあるの。

・・・

・・・

あのね、実は、

 

『なな』が、数日前に、亡くなったの。

 

 

・・・

・・・

 

10年近く前に、ユミが飼いはじめ可愛がっていた愛猫の「なな」。

僕らが引っ越しの際に、僕の札幌の実家に預け、

それ以来、僕の両親と札幌で暮らしていた。

 

 

もう随分前から、腎臓が悪く、病院に通う日々が続き、

ちょうどジャングルに旅立つ2週間ほど前にも、

ユミと2人で札幌に帰省し、ななのお見舞いに行ったばかりであった。

 

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ジャングル出発2週間ほど前に帰省した際、

家族に囲まれ、「『秘蔵の』小野家の家系図」の上を闊歩する「なな」。

 

この夜、「なな」は僕らの寝室で、ずっと僕らを見守ってくれていた。

20130914_235034

 

そうか。旅だったのか。なな。

声にならず、ただただ、涙が流れだす。

 

でも、直前にユミと2人会いに行けて、良かった。

 

 

「『なな』、みんなに見守られながら静かに旅立ったって。

最後までみんなに愛され続け、ほんと幸せだったと思う。」

 

 

 

「なな」を札幌に預ける時、とても寂しがったユミも、

僕がジャングルに居る間に「なな」の訃報を知って、さぞ辛かったはずだ。

 

それなのに気丈に耐え、僕の帰りも待っててくれているんだ。

 

自分の右手のことはあるけれど、

ひとまずは、命を持って帰れそうなボクは、

そして、こうして待っていてくれるユミがいるボクは、

なんてありがたいんだ。

 

無事に、家に、帰ろう。

 

つづく

ジャングルマラソン「未」完走記16:次の、未来へ


冷たい水。美味しいご飯。

風雨をしのげる寝床。

安心して過ごせる、守られた世界。

そして、自由に動かせる、自分の身体。

 

そんなものは、すべて「当たり前」なんかではない。

 

「当たり前」なんて、いつ失われるかワカラナイ、

いかに儚いものか。

 

 

帰国の途、ネットも繋がらず、ただひたすらKindleの端末に

未読のまま溜まっていた本を何冊も読みあさった。

縁(えにし)とは不思議なもので、

その中から、たまたま何気なく選んだ一冊の本に、衝撃を受けた。

 

「梅原猛の授業 仏教」

無宗教な僕ではあるが、誰かに薦められたかなにかで、

なんとなく買って、長いことそのままになっていた本だった。

 

その中で紹介されていた、ブッタの考え方。

 

生きるなかでは、様々な苦しみに向きあうのだと、理解しなさい。

自分が死ぬ苦しみ。病気になる苦しみ。愛する人を失う苦しみ。等々。

そして、その苦しみは、求めるものがあるからこそ生まれるのだと、理解しなさい。

求めるからこそ、それ失う苦しみが生まれるのだと。

 

実はとても儚いにもかかわらず、

日常生活の中で「当たり前」になってしまっているものが、いかに多いのか。

 

それらを「当たり前」と求めるからこそ、

いざ失うハメになった時に、

苦しんでしまうのだろう。

 

安定した生活も、安全な暮らしも、大事な仲間や家族の存在も、自分の健康そのものも。

 

だから、何も求めず空虚に何も求めて生きろというワケではない。

ただ、それらが「当たり前」でもなんでもなく、極めて儚いものだと理解し、

だからこそ、大事にし、感謝して生きていけば

苦しみに溢れて生きるのではなく、より安らかな心で生きることができるのかもしれない。

 

 ブッダのコトバも、そういったことを思い出させてくれる、ひとつの考え。

 

「人生は、有限。だからこそ、見たこともない世界を見てみたい。

まだ知らぬ自分と向き合ってみたい。チャレンジしてみたい。」

 

そう思い、砂漠や、北極や、南極など、

これまで様々なチャレンジを続けてきた。

 

でも、ややもするとボクのチャレンジは、

自然や、人間など

自分自身ではコントロールしきれないリスクが高まりうる方向にばかり

進んできたのかもしれない。

 

しかし、命はもちろん、自分の健康や、大事な人との時間も

いつ失うかワカラナイものなのだ。もっと、大事にせねば。

 

そういった、リスクばかりが増えるチャレンジは、もう、辞めよう。

 

リスクが高まらずとも、自分と向き合い、

新たな自分と出会いうるチャレンジへと、進んでいこう。

 

たとえば、来年1月の

沖縄本島1周330kmクレージーラン

のような。

「330km、60時間1ステージ。ノーエイド、ノー宿泊ポイント(勝手に泊まるのはOK)」

というかなりぶっ飛んだチャレンジで、新たな自分に向き合えることができそうだ。

もちろんリスクはゼロではないが、

文明や道徳が通用しやすく、自然の脅威もある程度コントロールはできる。

 

 

無事に帰国し

「リスクが高いチャレンジは、もうしない。

そういったチャレンジじゃなくたって、自分とのチャレンジは続けられる」

 と、ブッダから学んだフレーズとともに、ヨメに高らかに宣言した。

ヨメも、安心してくれるに違いない。

 

 

 

 

 

「ってか、気づくの遅いよね(`・ω・´)。

 

とっくの昔から、まったく同じコト、

言い続けていたよね、ワタシ(´・д・`)」

 

 

ヨメの事を、我が家の「ネ申」と崇めてきた僕だったが、

我がヨメは「ブッダ」でもあったのか・・・(T人T) ナムナム。

 

 

こうして、ボクのジャングルは、終わった。

 

 

ところで、右手について。

帰国後すぐに駆けつけた病院で、僕の手の症状も明らかになった。

 

その名も

「橈骨神経麻痺」

英語では

Saturday Night Palsy

 

別名

 

「ハネムーン症候群」

とも呼ばれているそうだ。

 

土曜の夜(Saturday Night)、カノジョと過ごす時や

もしくは新婚旅行先にて

 

「腕まくらして、起きるマヒ」

 

だそうな(´・д・`)。

 

 

なんてことはない。

リタイア直後、ボートの甲板で1-2時間

 

自分で自分を腕枕して寝ていたのが原因(´・д・`)。

 

お医者さんからは

「ほっときゃ、治るww。

薬出せるとしたら、ビタミン剤程度だなwwww。」

とのことで、笑っちゃうくらいアホな原因だったのだが。

 

とはいえ、たった1-2時間程度の原因で

1〜3ヶ月マヒが続くこともある

症状のようだ。

 

幸い、僕の場合は1週間ほどで、ほぼ動くまでに回復してきた。

(いつもよりレースからブログ完成まで時間がかかったのは、タイプがうまくできない時期があったからですm(_ _)m )

 

しかし、その知識もなく、原因を調べたくともネットも繋がらず

なにより、治安や道徳といった「当たり前」さえが通用しない環境下では

「利き手が突如動かない」ことに、大いに不安を感じざるを得なかったのは事実だ。

 

今回のレースで得た体験・学びは、

レース中の「人間」によるトラブルも、

リタイアに至る決断も、

右手の事も、

そして旅立った「なな」の件も

僕にとっては、いいタイミングで、よい気付きを与えてくれた

素晴らしく貴重なものになった。

 

当たり前ではない命が、元気な身体が、大切な家族や仲間があるからこそ

また、次の未来へと進んでいこう。

 

最後に。

 

今回のジャングルマラソンは、

それ自体は一定のリスクはありながらも、過去何年か日本人も含め沢山の人が完走しており

主催者のShirleyやスタッフも素晴らしい方ばかりでした。

この場を借りて、深く御礼申し上げます。
(選手や多くのスタッフとは、今もフェイスブックにて交流が続いています)

 

そして、最後の最後に。
様々な形で応援頂いたり、

心配をしてくださったりした皆さま。

 

本当に、ありがとうございました!

まだまだ、やりまっせ(`・ω・´)ゞ!

m(_ _)m。

 

おわり

 

 

【 書籍を出版しました】

マラソン中毒者_(帯付) small4

「マラソン中毒者(ジャンキー) 北極、南極、砂漠マラソン世界一のビジネスマン」
(小野裕史著 文藝春秋刊 1,575円)

 35年間、超インドア派で運動とは無縁だった。
中高と、部活は吹奏楽部。
趣味は読書とネットとゲーム。
体育の成績は常に「上中下」の中もしくは下。
そんな僕が、仕事でもなく、単なるダイエットで始めたランニングをキッカケに
本を発売することに。

誰にだって、いつだって、未来は、変えていける。
こんなにもオモシロい未来にたどり着けるなんて。

そんな体験を、少しでも多くの方に共有できれば。
そんな想いとともに書いた本です。

ランに全く興味のない人を含め、老若男女に笑いあり涙ありで

美しい砂漠や北極、南極のカラー写真52ページと共に楽しんで頂ければ。

全国書店、アマゾンなどネット書店でご購入頂けます。
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