【南極100kmマラソンへの道】その18「そして、旅は終わりへ向かう」


「あと、たった、2周。

たった、20kmだ。」

長い長い、旅も、あと20kmで終わるのだ。

そう、言い聞かせても、

20kmがとてつもなく長く感じる。

現時点で、暫定とはいえ、2位。

80 -82kmの直線コース。
70-72kmの周回では、ジュリアンに軽快に抜かれた直線だ。
80km地点のエイドで時間を稼いだけど、
またさっきみたいに抜きに来るんだろ?
彼らとは、かれこれ

計8回も、抜かれ、抜きつを繰り返し

ているのだ。しかも、よく考えると、オレは抜かれてばかりだ。
たった一度だけ、歩いたジュリアンを抜いた以外は

走っている彼らを抜き返したのではない。

ただエイドを早く出ただけのことだ。

あとは、全部『抜かれてばかり』じゃないか。

 

次にまた抜かれたら、

さすがにもうキモチが持たないかもしれない。

とはいえ彼らの走力的には、

確実に周回のどこかで、オレ抜いてくるハズだ。

問題は、エイドで稼いだ時間で、

どこまで抜かれずに粘れるかだ。

でも、もしかしたら、彼が僕を抜いた後、
またジュリアンが歩く機会が出てくるかもしれない。

イアンが、90kmでもエイドでゆっくりしてくれるかもしれない。

いいや。いろいろ考えたって、しょうがないじゃないか。

とにかく、

自分で出来うる走りを、

残り20km

必死でぶっつけていくんだ。

ここまで頑張ってきたんだ。

これで、最後じゃないか。

 

さっきよりも、
さらに、苦しい。
こんなにも苦しい走りが、

まだ20kmも続けなくてはならないというのか。

また3位になっても、はたまた4位に落ちちゃうとしても、いいじゃないか。
でも、ちょっと待て。
彼らだって、苦しいはずだ。
ジュリアンにいたっては、

オレと違って昨日フルも走っているんだ。

恐ろしい、タフさだ。

かなわない。。。
いや待て、ジュリアンだって、

さっき少し歩いていたじゃないか。

やっぱり苦しいに違いない。

みんな、苦しみながら走っているんだ。

みんな、

自分に負けまいと、必死に闘っているんだ。

オレだけが弱音を吐いて、どうする。

 

残っている力を、

ただひたすら絞り出して進んでいけ。

84km地点。
残り、16km。
普段のトレーニングで、よく走る距離じゃないか。
ひたすらに、苦しい。
まだ、抜きに来てくれないのか。
70-80kmの周回の時の様子的に、
そろそろ彼らなら追いつける頃だ。
後ろが、気になる。
でも、ゼッタイに後ろは振り返らない。
彼らとの距離を確認したところで、
オレが出せる力は変わらないのだ。

振り返るということは、自分のココロに負けるということ。

それだけはしないと、

自分で自分に約束したじゃないか。

やれるよ。

やれるんだ。

何度も、何度も、

いろんなカタチで不安がよぎる。

こういう競り合う場面では、
オレはいっつも、最後の最後で抜かれちゃうんだよな。
最後に、ココロで負けちゃうんだよな。

そんな経験、ばっかりじゃないか。

今回だって、

こんなに頑張っているつもりだけれど、

やっぱり、最後には抜かれて、ズルズルと3位、4位に落ちていくんだよ。

それだって、みんな、

「がんばったね」

「凄いね」

って、きっと、言ってくれるよ。

イヤだ。


やっぱり、

そんなのは、イヤだ。

順位が落ちるのがイヤなんじゃない。

自分の弱いココロに自分で負けるのは、

ゼッタイにイヤだ。

キモチで、負けてたまるか。

85kmエイド地点。

今回も、止まらず走り抜けてやる。
このまま90km地点でも止まらず、
ラスト20kmはエイドをスルーして無補給で走って、
少しでも時間を稼ごうじゃないか。
20km無給水でスパートしたって、きっとなんとかなるはずだ。
とにかく、やれるだけのことは全てやってやるんだ。

決して、自分にだけは、甘えるな。

もう全力を出しているなんて、

ゼッタイ思うな。

また、更に搾り出せ。

苦しい。

バーカ。

思うから、苦しいんだよ。

少しでも、呼吸を深くするんだよ。
そうすれば、少しだけでも、楽になるはずだ。
88km地点のカーブ。

視界に、人影。

500m程後方。誰かが、いる。

いやがおうにも、視界に入ってくる。

ジャケットが青い。

たぶん、ジュリアンに違いない。

78km地点の時点では、ここからエイドまでの2kmで詰められて抜かれたんだっけ。
やっぱり、ヤツはスゴいよ。

まだしっかり着いてきている。

いいんだ。

また、繰り返せ。

少しでも、腕を振るんだ。
少しでも、大きく呼吸をしろ。
少しでも、姿勢を保て。
少しでも、残った力を脚に繋げろ。
そして、少しでも、脚を前に出すんだ。

 

苦しい。。。

ふっと、思い出す。
みんな、応援してくれていたじゃないか。
出発直前にもかかわらず、
70名近い人たちが、壮行会に集まって応援してくれたじゃないか。
友達や先輩達も、いっぱい心配してくれたり
時間が無い中、
たくさんの応援メッセージや応援グッズを用意してくれたじゃないか。
それをもらった時の想いを思い返す。
みんな、無事のゴールの便りを、
待っていてくれているんじゃないか。

「オレ、出し切ったよ。

みんなのおかげで、やれたんだ。」

そう、言いたいよ。

言いたいんだよ。

ふっと、カラダが軽くなる。

そうだよ。行けるよ。

できうる限りの走りで、ラスト12km、行こうじゃないか。

90km地点。

エイドなんて、寄らない。

ラスト周回。

そのまま向かう。
あと、10kmで終わるんだ。
ここで、ペースを上げずして、いつ上げるんだ。
92km地点。

周回、最初のコーナー。

いない。

ここ30kmほど、

必ず目にしてきたはずの

視界に映る人影が、

いない。

すくなくとも1km以内後方には、誰もいない。
90kmのエイドをパスしたのが、効いているのか。
あと、8km。

よほどでなければ1kmは詰められないはずだ。

2位で、いけるのか?
いや、彼らも相当な脚をもっている。
事実、信じられないペースで追いつかれ抜かれた経験を
何度もしているじゃないか。
80-90kmで追いつかれなかったのも、
ラスト10kmスパートのために貯金していただけかもしれない。

ゼッタイ、油断するな。

後方の彼らに対してじゃない。

自分自身に対してだ。

彼らも、ものすごい苦しい中でここまで闘ってきているのだ。
ジュリアンにいたっては、昨日のフルのダメージがあるのだ。
オレと比較にならないくらい、苦しいに違いない。

少なくとも、そんな彼に、恥ずかしくない走りをしなくては。

だから、ゼッタイ、油断しちゃダメだ。

カラダの中で、少しでも疲労が少ない箇所を探すんだ。

そこの力を振り絞って、一ミリでも前に脚を進めていけ。
ほんの少しでも、ピッチを早めるんだ。
どこかに、力が残っているはずだ。
そうだ、呼吸もだ。
思いっきり吐いて、思いっきり吸うんだ。
苦しさも、限界に達している。
が、あと、たった数十分なんだ。
いや、後ろの彼らの方が、限界なはずだ。

自分に、甘えるな。

95kmエイド。

当然、エイドは寄らない。

突き進め。

97km地点のコーナー。
視線に映る後方を意識する。

誰も、いない。

あきらかに、かなり差を付けたようだ。

イケる。

2位。

参加人数が少ないとはいえ
一度も経験したことのない順位だ。
いや、順位なんかじゃない。

彼らと闘ったと胸を張って誇れるような

そんな走りを、最後の一秒まで続けるのだ。

あと、3kmが、
こんなにも、長いのか。
これまで、どれだけ長い時間走り続けてきたというのだ。
もうすぐ、13時間になろうとしている。
13時間は、確実に切れるハズだ。
でも、すこしでも、縮めてやる。

残り、1kmを、切った。

後ろは、見ない。

自分のベストを出しつくしさえすればいいのだから。

残り、500m。

ゴールで沢山の人たちが待ってくれているのが見えてくる。

胸が熱くなる。

ぐっと、こみ上げてくる。

99km以上、13時間近く走り続けた中で、
初めて、コーナー以外で、後ろを振り返る。
もう追いつかれることは無いのはわかっているが、
ゴール直前で気を許してしまいそうな自分に
あえて後ろを見ることで、気を引き締めるためだ。
最後まで、甘えるな。

最後まで、誇れる走りをするべく、

自分に油断しちゃあダメなんだ。

彼らに恥ずかしくない、走りを最後まで続けるんだ。

ゴールまで200m。

ゴールで待っている人が、日本の国旗を持って駆け寄ってきてくれる。
レース中、誰かとすれ違う時には常に欠かさなかった笑顔。

10kmもある周回を、

時々、誰かが応援しながらのんびり歩いていることがあった。

そんな時は、どれだけうれしかったか。

どれだけ苦しくたって、

笑顔で「ありがとーっ!」って手を振ったじゃないか。

最後も、思いっきりの笑顔で、ゴールしよう。

左手に日の丸を担ぎ、
右手で、100kmずっと携えてきたニンジャ刀を抜き、天に掲げる。
山の応援の声が耳に届く。
「Go!Go! ニンジャ」
「Hiro、がんばれ!」

「もうすぐだ!!」
そして、日本で待っててくれている、

家族や、

友達や、

先輩のたくさんの顔がうかぶ。

100km。

ついに、長い、長い旅が、終わった。

オレ、やったんだ。

やりきったんだ。

100km、出しきれたんだ!

結果は、
12時間51分48秒。
9名中、2位。

数字は、あくまで、結果。

なにより、

あれだけの展開の中、

最後まで自分に負けずに走り続けられたのだ。

とにかく、長かった。
でも、

素晴らしい時間だった!
沢山の

「おめでとう!」

「素晴らしい!」

「さすが、ニンジャだ!」の声に
何度も、お辞儀をし、
思わず、日本語で

「ありがとう!」
「とにかく、ありがとう。
ものすごく、楽しかったんだ。
と繰り返す。
こんなに長い時間、
ライバルとの競り合いの中で、自分と闘い続けたレースは、
そして、何時間もの間、最後の最後まで、
出し切るコトができたレースは、かつてない。
肉体的にも精神的にも追い込んだのとは裏腹に
出てくるコトバは、

「楽しかった」しか、

出てこない。

「よしっ!ビール飲もうぜっ(・∀・)」

応援のみんな、ちょっと苦笑いしてる??(;・∀・)

そうだ。

ジュリアンをゴールで待ちたい。

彼に、
「ありがとう」を言いたい。

が、

ドクターがすぐに駆け寄ってきて

温かい格好で温かい場所に移動しろと伝えてくる。
「いや、彼を待っていたいんだ」
と伝える。
しかし、予想以上に差はついたらしく
「彼がゴールに近づいたら呼んであげるから、一旦テントにはいりなさい」
そして、ジュリアンと共に3名でデットヒートを繰り返したイアン
ゴール地点に戻ってくる。
が、

なんと彼はまだもう1周残っているようだ。

みなの応援を背にエイドテントに向かっていく。

ずっと2~4位争いをしてきたと思っていたのだが、

周回遅れとは思えない走りをしていたので、

すっかり勘違いしていたのか/(^o^)\。

でも、彼も、随分とボクを引っ張ってくれた。

ありがたい。

そうして、いよいよ、ジュリアンが戻ってきた。
完全に、疲労困憊している様子がわかる。
ゴール!
でも、ゴールで歓声をあげて集まるみんなを通り過ぎ
ヨロヨロと先まで歩いていく。

膝を抱え、上半身が崩れ落ちる。

彼のパートナーのルイス(フル2位。万里の長城マラソン優勝者)が、

そっとジュリアンの肩を抱きに行く。

ルイスは、途中で棄権していたようだ。

彼は、昨日のフルで、あれだけの闘いをした後なのだ。

ジュリアンが、

ルイスに肩を抱かれながら、

顔を手で覆い、涙を流している。

グッと胸にこみ上げて来る。

彼も、フルから連日の100kmで、

あれだけの走りをして

並々ならないタフさで

この100kmを駆け抜けてきたのだ。

どれだけの想いを抱えながら走ってきたことだろう。

同じ100kmを走った自分だからこそ、

グッとこみ上げてくるものがある。

 

しばらく、誰もジュリアンに近寄れない雰囲気の後
ルイスがジュリアンを抱えて、テントに向かっていく。
迷いながらもジュリアンに駆け寄っていく。

「ジュリアン、本当に、君は素晴らしいランナーだ。

君と走れたことを心から、光栄に思う。

本当に、ありがとう」

彼も、憔悴しきった顔ながら、笑顔を見せて、

硬い握手。

そしてハグ。

「君のおかげで、ボクは走れたんだ。

素晴らしい走りを、ありがとう」

つづく

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