【南極100kmマラソンへの道】その17「とてつもなく、長い70〜80km」


そうして、70km地点のエイドへ。

数字的には、後半だが、

「残り30km」

という数字は、けっして軽くはない。

幸い、ボクを抜いた2位の選手も、

まだエイドで休んでいるじゃないか。

彼も、1位を行くであろうマークと同様

キャンプ地に住む、イアンである。

彼はいつもエイドでゆったりするタイプのようだ。

これはチャンス。

エイドでの時間を節約すれば、少しは時間を稼げる。
よし、サクっと水分&エネルギー補給をして、行くべか!

と、思ったその時だった。

エイドにもう一人選手がやってくる。
ジュリアンだ。

彼は、万里の長城マラソンを優勝したルイスと共に

スペインから参加しており

昨日は抑えめとはいえ、フルを5位で走った選手だ。

あきらかに、早そうなランナーだ。

ついに、彼までも追いついてきたのか。
ジュリアンも、

エイドにいるボクの姿を見て、

少し驚いた顔をしている。

「追いついた!」

と思ったに違いない。

ジュリアンにまで抜かれたら、

オレは一気に4位に落ちる

まだ残り30km。

一気にヘヴィーな展開になってきた。

しかし、忘れるな。
やるべきことは、自分の走りだ。
イアンとジュリアンがいるエイドをすぐに飛び出し、

70-80kmの周回に入る。

よし。

これで、ひとまずまた2位だ。

も、つかの間。
ものすごいスピードで後ろから足音が聞こえてくる。

ジュリアンである。

さっくり、抜かれる。

再び、3位転落

ジュリアンが、飛ぶような軽快な走りで抜き去っていくのだ。

なんという、力強い走りなんだ。

抜かれて3位に落ちたことよりも、

ジュリアンの走りに、半ば感動で

思わず

「スゴい!昨日フル走っているのに。なんてタフなんだ!」

と声に出す。

彼も、軽くボクに握手して、抜き去っていく。

グッと、パワーをもらった気分である。

彼は昨日のフルに続き、すでに70kmを走っているというのだ。

これだけ底力の差があるとは!

さすがに、彼に追いついていくのは難しい。

3位に落ち、

エイドで逆転し2位になるも

一瞬にしてまた3位に落ちる。

しかも、さっきの不発弾事件で抜かれたイアンとは違う選手、

ジュリアンに抜かれてだ。

そして、前をゆく2位のジュリアンとも距離が開いていく。
さらに、ボクとジュリアンに続いて

4位でエイドを出たイアン

早くも後ろに気配を感じる。
イアンも、まだかなりエネルギーが残っていそうだ。
エイドではゆったりだが、走り出すと明らかにペースがボクより早い
彼に抜かれたら、今度は4位にまで落ちてしまう。

いや、ペース的に、

抜かれて4位に落ちるのは時間の問題だ。

15km地点あたりで一瞬1位になり、

すぐに2位に戻った20km地点から65km地点までの間、

ずっと2位をキープしてこれていた。

65kmまで、ずっと頑張ってこれていたのだ。

それが、この先残り30kmで一気に崩れ、

4位に落ちて終わってしまうのかもしれない。

そういえば、北極点マラソンも4位だった。
できるコトなら、3位以上を取りたい。

いや、それどころじゃない。

後から、ルイスも追いかけてくるかもしれない。

そしたら、5位にすら落ちる可能性すらある。

またもや、

一気に、キモチが萎縮しそうになる。

いいや、いけない。

キモチが大事なんだ。

また、そんな、くだらない順位なんかを気にしているじゃないか。

そんなのは関係ないのだ。

オレも、やれることはやれているのだ。

この日に至るまでの、

様々なトレーニングの日々を思い出してみろ。

3週間、禁酒し、

食べるモノも量も極力制限して体重を落としてきた。

毎週、100kmは欠かさず走ってこれてきた。

あまりに苦しくって、「行きたくない」って思いながらも、

何度も何度も、低酸素トレーニングに通った。

その日々を思い出してみろ。

今日だって、ここまでの70km、

なかなか立派な走りをしているじゃあないか。

うん。そうだよ。

それを、続けさえすればいいんだよ。

少しでも、足を前に出して行け。

少しでも、腕を振って行け。

少しでも、呼吸を大きくして行け。

できるコトを、ただひたすら、気を抜かずに続けて行け。

そうして耐え続けていく。

73km地点。

信じられない光景を目にする。

2位を行くジュリアンが、歩いているじゃないか!

どうしたのか。
たしかに、一番逆風も強く、
一気に気温も下がり、足元もかなり悪いコースゾーンではある。

70kmのエイドでボクを見かけ、

一気にスパートで抜きにかかろうとして

無理がたたったのだろうか。
オレは、ゼッタイに歩いたりするもんか。
チョビチョビ走りではあるけど、走り続ける。

そうして、

ようやく、

ジュリアンを抜く。

再び、2位。

ジュリアンを抜いても、

すぐに彼は追いついてくるかもしれない。

後ろから来るイアンだって、迫ってきているかもしれない。

でも、

オレはひたすら変わらずベストを出し続けて走ればよいのだ。

75km。

中間のエイド地点。

65kmの時は、思わぬ大ブレーキだったが、
今回は、ゼッタイに止まるもんか。
エイドに止まらない分、少しでも時間を稼いでやる。
補給も、抜きだ。
ここは南極だ。
寒いから10kmに一度給水でも十分なハズだ。
エネルギーも、ポケットに入っているエナジージェルで補おう。

走りながら、ポケットからジェルを取り出す。

が、

半ば凍ってるじゃないか!

ジェルを絞り出すのもやっとである。
走りながら、

硬くなりつつあるジェルを口に入れても

飲み込むというより、噛みちぎる感じだ。

口の中がネチャネチャして、呼吸が苦しくなるが、
エイドに止まらない以上、食べながら走るしかない。

かまうもんか。

ただ、走り続けろ。

78km地点。

もうすぐ、また周回が終わる。

真っ白なので、わかりにくいが、

明らかに、上り坂である。

しかも、足元は雪でぬかるむ。

走るスピードが落ちているのが体感でわかると

メンタル的には、ぐっと来る。

が、それは後ろの選手もおんなじだ。

かまうもんか。

ひたすら、走り続けろ。

後からまた足音が近づいてくるのを感じる。
いよいよ、捕まったか。

ジュリアンか?イアンなのか??

でも、後ろは見ない。

ひたすらに、

できうる限り少しでも前に足を進めればいいのだ。

今の自分ができる限りの力を出して、

それで抜かれるのであれば、

それまでだ。

自分ができる走りを続けることに、変わりはない。

79km地点。

後ろの足音が、

2つに、増えている。

苦しい。

息も苦しい。

脚も残っていない。

いっそ、軽やかに抜きさってくれよ。
そうすれば、むしろ諦めがつくじゃないか。

まだ、20km以上残っているんだ。

この苦しみを、あとさらに20kmも続けろというのか。

80km地点まであと200m。
ついに、またも、抜かれてしまった。

ジュリアンではなく、南極キャンプ地の住人、イアンだ。

エイド休憩が長めな選手だ。

「これで、またしても3位転落か。。

でも、イアンはエイドで巻き返せるかもしれない。

諦めるな。

80km地点まであと100m。

なんと、今度はジュリアンにも抜かれる。

「4位か。。」

イアンに抜かれ3位に落ち、

エイドで無理やり2位に戻し、

今度はジュリアンに抜かれ3位に落ち、

なんとかまた2位に戻り、

そして、80kmも耐え続けてきたこの時点で、

一気に、二人に抜かれた。

このレースで

初めて味わう4位である。

彼らの脚の残りっぷりから考えて、

エイド以外で巻き返せる自信がまったく見当たらない。

いくら「順位は関係ない」と言い聞かせても、
さすがに、

グッとココロが重くなる。

「2位獲って帰国できたら、

応援してくれたみんな、

すごい喜んでくれていたかもしれないのにな。

胸張って帰れたかもしれないのにな。」

いいんだ。

自分で誇れる走りをし続けた結果ならば、いいじゃないか。

ゼッタイ、自分に、負けるな。

キモチを、切り替えよう。

ここは彼らを先に行かせて

彼らがエイドに行くのかどうかを見極めるためだと思おう。
80km地点でエイドに寄った後のラスト20kmは
少しでも彼らとのタイムを縮めるために、
20kmの間、エイドは一切寄らずにスパートしよう

そう、ココロに決めている。

そのためにも、

 

ここ80km地点では、エイドに必ず寄らねばならない。

70km地点以来まだ水分をって無いのだ。

さすがに30km給水抜きでスパートをかけるのは自殺行為だ。
彼らが、80km地点で、エイドに寄らずに先にいったら、
さすがにもう追いつけないかもしれない。

その時は仕方がない。

けど、彼らも80km地点でエイドに向かってくれたら、
「エイド速攻作戦」で、少しはまた時間を稼げるかもしれない。

そこが、唯一残された、

差を詰められるポイントかもしれない。

見ると、

前をいく二人ともに、

エイドに向かうではないか!

「よし、ギリギリ、望みはまだ繋がっているぞ」

オレはエイドを早く出ることでしか、
彼らを追い抜くチャンスが無いのだ。

脚の残り具合では、彼らの方が上のはずだ。

少しでも、先にいって稼がなくては。
少しでも2位になれる可能性があるんだ。
走ること以外でも、できることは、全部してやる。
補給も、最小限で、構うもんか。
さっくりエイドを飛び出し、80-90kmの周回に入る。

また、2位。

諦めるな。

いよいよ、

泣いても笑っても、残り20km。

とはいえ、長い長い、20kmだ。

つづく

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