【北極マラソン完走記:その8】人生で、最も長い、フルマラソン。


そうして、北極(ノルウェー)時間の夜10時。
白夜のもと、40名の選手を迎え、北極マラソンがついにスタート。

スタート直後の動画。
(ゴーグルにContourという小型ビデオカメラをつけ、そこからの映像)

まずは、様子を見る為に、最後尾あたりからスタートし、快調に抜いていく。

踏みしめる場所により、雪や氷が

「キュッキュッ」「クヮックヮッ」

など、実に様々な音がして楽しい。

が、当たり前だが、

体が温まるまで、実に寒い。

走り始めて40分ほどの映像。

汗や涙で、既に眉毛などに氷が付いてますw。

一番困るのは、涙が凍ってまつげに付いた氷。

放おっておくと、まばたきした一瞬の間に下のまつげとくっついて、

目が開かなくなる。そして、とにかく、足が雪に取られ、

砂漠を走る以上に走りにくい。

しっかりした足場と思い足をつくと、突然くるぶしまで足が埋まってコケそうになったり、

その逆だったり。(砂漠だと、残った足あとで足場の様子が想像しやすい)

コケる事もしばしば。

北極マラソンを走ると決めた時、

参加人数も少ないこともあり、正直、上位を狙いたいと思っていた。

フルマラソンのベストは3時間15分程だけど、

昨年と一昨年の北極マラソンの優勝タイムが5時間ちょっと。

「ひょっとしたら、狙えるんじゃね?」

が、走り始めて5kmもしないうちに、

「こりゃ、タフだ!甘かった!」

と気づく。

そして、事前に情報を得ていたが、

「プロのアスリート」が選手に何名かいるようだ。

前を走る3名が、圧倒的に速すぎる。

そして、僕を含め、4-6位がかなりの僅差でデットヒートが続く。

4位になったり、5位に落ちたり、

すぐ6位の選手が後ろから迫ってきていたり。

大会に出場する以上は、

もちろん、順位はより上の方が、嬉しいに決まっている。

でも、マラソンは、他人ではなく自分との闘い。

年齢や、トレーニング量や、素質や、体調などは

その時のその人によって、それぞれ異なる。

そんな各人の状況の中で、

「今ある自分を、どこまでコントロールし続け、出し切れるのか?」

の勝負である。

一度、4位から5位に落ちた時、

僕を抜いた4位の選手に、かなり先まで差を明けられてしまった。

まだ半分も走っていないのに、早くも足に今までにない疲労を感じる。

「このタイミングで、こんなにヘバってたら、

後半、ズルズル落ちていくんじゃないのか??」

もう、ココロが折れそうになった。

それまでは、カメラマンに近づいたり、

キャンプで見物しているロシア人が近づくたびに、

忍者刀を抜いてパフォーマンスしながら笑いを誘い走っていたのだが、

そんな余裕も徐々になくなり、表情も、必死な顔つきになっていく。

「順位なんて、いいじゃんか。

北極で、走っているんだぜ??

こんな経験、2度と出来ないかもなんだ。

とにかく、楽しもうじゃんか」

自分に言い聞かせつつ、

一方で、「順位なんて、いいじゃないか。」を単なる甘えとして、

自分にブレーキをかけがちな自分がいる。

まだ、やれるハズなのにサボってしまいたくなる。

でも、それだけは、自分として許したくない。

こんな所まで来たからこそ、順位ではなく、

自分に悔いのないランをしたいんだ。

4.2km×10周のコースで、

水や食料を補給できるのは、唯一、スタート&ゴール地点のテントのみ。

当然、補給のためにテントに寄るとタイムロスになるが、

補給しないと、いつ脱水やエネルギー切れが起るかわからない。

でも、前の選手に離されかけていたり、後ろが迫ってきていると、

自ずと意識してテントでの補給をガマンしてしまうし、

相手も僕を見ながら、テントに入るタイミングを意識しているのが伝わる。

なるべく補給でのタイムロスをギリギリに抑える為、

僕は、3周目(12.6km)、6周目(25.2km)が終わる2回だけ補給をし、

9周目(37.8km)では補給せずに一気に10周目を回ってゴールする作戦に。

気づけば、僕を抜いた4位の選手の背中は既に見えなくなってしまった。

それでも、すぐ後ろに6位の選手がひたひたと僕をマークしている。

僕が多少余裕ができて、

「ちょっとペースあげてやったぞ!どうだ!」という時でも、

しばらくすると、着実に後ろに足音を感じる。

差をつけても追いつけるということは、

オレを抜けるはずのチカラは残っているハズ。

でも、なかなか抜かずに後ろを着いてくる。

「後半、もしくはラストまでこのままヘバりついて、

オレが弱ったところで一気に抜きにでてくる作戦だな??」

もし抜かれてしまえば、

「抜かれたし。もうダメだ」と一気にココロが緩み、

ある意味安心して、ペースを緩める甘えの材料に繋がる気もする。

「苦しいし、コケたフリをして、一気に抜いてもらっちゃおうか。

そうしたら、ラクになれる」

そんな甘えも、常に浮かんでくる。

でも、やっぱり、抜かれたくない。

「相手に抜かれたくない」というより、まだ頑張れるハズなのに、

何より、

「自分に負けてしまう」のは、イヤだ。

少しでも歩を緩めれば、すぐに抜かれてしまいそう。

一歩も、油断できない。

少しでも、走りやすい場所を探して足をつき、

少しでも、腕を大きく振って、

少しでも、足を伸ばすんだ。

それを続けていると、

キツいけど、ほら、

少したったら、ふとラクになる時があるじゃないか。

そうやって、続けていけるんだよ。まだまだ。

4周目から7周目までの2時間程、

ひたすら、後ろの6位の選手を背後に感じながら走り続ける。

何度も、ココロ折れそうになりながらも、

風景を見ながら

「なんて、スゲー景色の中、走れているんだ!」と感動と感謝を感じ、

周回遅れの他選手を追い抜く時に、挨拶しながら

「我ながら、なんてアホな格好で走っているんだw!」と(・∀・)ニヤニヤしながら、

苦しさに甘えそうな自分を、ごまかしなだめていく。

そうして、2時間以上背後を追いかけられながら走っていると、

気がつけば、

ずっと前に僕を抜いて、背中が見えなくなっていたハズの4位の選手に

もう少しで追いつける距離まで近づいてくるではないか!

これは、踏ん張って追いぬくしかないぜっ!

やれるはずだろう?

でも待てよ。

ヤツを追いぬくと、今度は抜かれるプレッシャーで、もっと苦しくなるぞ?

ずっと2時間以上ガマンしてきたけど、

もっとツラくなっても、いいのか??

でも、でも、まだやれるチカラがあるはずなんだし、

せっかくの北極でチカラを出し切りたいじゃねーか!

またしても、甘えたい自分を

出しうる飴玉をつぎつぎ使ってなだめながら、少しでも、前へと足を伸ばしていく。

9周目に入ったあたりで、

ついに、4位に返り咲いた。

「抜いても、後ろは振り向かない。

ただ、自分のランを精一杯
やろう。

こんなスゴイコースを、あと、たったの2周しか走れないんだぜ??

思いっきり楽しまないと、もったいないじゃんか!」

ペースが上がると、息もあがる。

防寒マスクをしていると、息が苦しい。外したい。

が、一度外すと、頬がすぐに寒さで痛くなる。

そして、寒さを防ぐために、一度外したマスクをつけ直すが、

ガチガチに凍っていて、しばらく呼気で温めないと、

防寒どころか逆効果になりかねない。

気づけば、左足の指先も、ヘンな痛みを感じつつも、

寒さのせいか、感覚がないようにも感じる。

手袋を3重にして、カイロまで入れている指先だって、

時々、手袋の中で手を丸めないと、

凍傷になっちゃうんじゃないか?と気になる。

何より、腰に差した、忍者刀で、腰が擦れてイタイw。

マイナス要因を上げればいくらでも浮かんでくる、

その全てが、

「順位なんて気にせず、ラクに楽しく走ればいいじゃないか」

というキモチに繋がる。

が、腰の痛みあたりに気づいた時点で、

すべてのマイナス要因が、バカバカしく笑えてくる。

「そういや、オレ、なんでこんなところで、こんなカッコウで走ってるんだっけ?w」

そんなマイナス要素なんて、あったりまえだ。

ココは北極なんだ。

北極で、わざわざマラソンしているんだ。

しかも、誰も頼んでもないのに、ニンジャのコスプレまでしているんだ。

寒かったり、痛かったりなんて、あったりまえだろうがww。

ふっと、キモチが軽くなる。

これこそが、コスプレランの効果なのだw。

自分すら、ごまかせてしまえる。

4位を保ちながら、

予定通り9周目が終わっても給水せずに、一気にラストスパートへ。

ラスト10周目を半分ほど走った時に、

追い抜いた選手に挨拶がてら後ろを振り向くと、

5位や6位に迫っていたハズの選手が全く見えなくなっている!

「やった!!!!勝った!!!!!!」

5,6位の選手に対してではない。

2時間以上、前に離され、後ろから迫られ、

ひたすら負けそうで、言い訳まみれになっていた、

自分自身に打ち勝てた喜びだ。

ツラさが全部ふっとび、爽快感と達成感が満ち満ちてくる。

「よし、最後は、ビデオで録画しながら、

ゴールの瞬間をバッチリ残しておこう!」

んが、ビデオのスイッチを押すも、全く反応せず。

どうやら、寒さで完全にバッテリーがお陀仏になってしまったようだ(;´Д`)。

目前に迫るゴールへは、もちろん、忍者刀と手裏剣でポーズを取りながら、

はだけていた(?)衣装を、完全ニンジャスタイルに戻しつつ、

ニンジャ特有の腰の低い摺り足な走り方で(外国人には全く伝わってなかったカモだけどw)。

そうしてついに、人類初

コスプレで北極マラソン、完走!!!

完走メダルも頂いてポーズ。

(メダルは、忍者刀の柄の下w)

タイムは、5時間7分5秒で、4位。

昨年、一昨年の優勝タイムに近いけど、

今年は4時間代が3名もいて、上位とは大差だった。

僕が最後に抜いた5位の選手も、

僕の数分後にゴールをしてきた。

お互い、何も言わなくてもわかる。

すぐに、固い握手。

5位の選手「キミは、本当にタフだったよ。さすがはニンジャだ」

オレ「いや、キミがいたから、僕は頑張れたんだよ。ありがとう」

過去、友達の付き添い等で、フルマラソンを5時間以上かけて走ったことはある。

けれど、これだけ、自分と向き合い、コントロールし続けながら、

なんとか保ち続けながら長時間走ったのは、初めての経験だ。

しかも、北極点という、この極寒の地で、だ。

そうだ。白夜でずっと明るかったから気づかなかったけど、

5時間たった今は、ノルウェー時間的に、朝の3時過ぎ。

ずっと明るかったけど、朝3時に起きてから、

夜10時から走り始めて、夜通し走ってた事になるのか。

いやー、いずれにしても、よくやった!

満足感が、ハンパない。

嬉しい!

なんて感動に浸っていると

止まった瞬間、凍えそうに寒さを感じる!!

寒さで震え、抜いた忍者刀がまともに鞘に収められない有様w。

いそいで、テントに戻らなくては!

「その9」に、つづく

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